ホアン一色 フラメンコ茂木直美  ホセ マヌエル

 昨日の夜、私は新大久保にいました。
それは、フラメンコを見ながらおいしいスペイン料理を食べるため。
フルーティなスペインワインを飲みながら、しばし歓談していると、
シックな水玉模様の、裾のフリルがかわいらしいフラメンコ用のドレスを着た女性が
けして大きいとは言えない舞台の上に登場しました。

 そして、彼女が踊り始めたその瞬間、私はその彼女のエネルギーに圧倒され、
食べるのも飲むのも忘れ、見入ってしまったのです。

 驚くほど至近距離で、瞬きも惜しいほどのダンス。
また一つ、私は宝物を見つけてしまったような気がしました。
目標に向かってひた走るその姿は、まさにプロ。
その踊りの随所に彼女の真剣さが自然に現れ、店中のお客さんを一瞬にして虜にしてしまいました。
 
 ピンとのびた姿勢、均整のとれた筋肉、なめらかな身のこなし。
そしてなんといっても日本人には馴染みの薄いあのリズム。
体に染みついたリズムが彼女に重く鋭いステップを踏ませる。
見ているうちに、何故か目頭が熱くなりました。
 
 理由は、自分でもわかりません。そういう経験は今まで一度きり。
ある人のピアノを聞いた瞬間でした。
そういう、人生をいろんな角度からみるということを学ぶきっかけをくれた人に、
今とても感謝しています。
そして、あのダンスを見ている時に、
『あぁ、今日のことはなんとしてでも文章にしなくては』
と奮い立ちました。ひょんなことに、自分の文章に対する思いを知らされてしまったのです。
ライトの光さえ、スペインの太陽に変えてしまう彼女は、
私にどんな影響を与えているか知らずに、今夜も踊っていることでしょう。

撮影、江田進 フラメンコ&スペイン料理ワイン